霹靂一閃


国内で上映された映画にはいろんなジャンルがあります。そのなかで人気の高いアニメ映画といえば【〇滅の刃~無〇列車編】で、様々な年代の方が映画館に足を運ばれたと報道されています。そのアニメ映画で最も人気の高いキャラクター(=雷の呼吸の使い手)の繰り出す決め技が「霹靂一閃(へきれきいっせん)」。

この言葉は、四字熟語ではなく、実は「霹靂」と「一閃」の造語です。各熟語の意味はというと、「霹靂」はかみなりの別名で、いかずちや雷鳴を指すこともあるそうな。落雷で大きな音が響きわたるといった意味でも使われるようです。また、「一閃」はぴかっと光ることや、そのきらめきの意味でも使われます。

 

さて、あらためて松山市考古館の常設展示室の展示品を確認してみると、“霹靂一閃”のイメージにぴったりの考古資料がありました。その考古資料が写真1です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この考古資料は、今から32年前の平成元年に記録保存の発掘調査が実施された、愛媛県松山市の若草町遺跡(現、市総合福祉センター)の“SK17”と命名された土坑の底から出土したものです。発掘調査ではこの考古資料は横倒しの状態ながら、胴部が完全な状態でしたが、口縁部といって土器の口のところがおよそ1/3ほど毀損(意図的に欠いた)していたのが印象的でした。観察等をおこなった後に両手でそっと土器を取り上げて、何気なしに胴部の反対側を見て、たいへん驚きました。複雑怪奇な線刻画が施されていたのですから。遺跡を形成する基盤の層が黄土色の砂質であったことが幸いして、土器を取り上げた際、胴部の反対側にはわずかに黒褐色の砂が付着しただけでしたので、奇妙なデザインの線刻が目に飛び込んできました。今、考えると、正に霹靂一閃

 

 

描かれた線刻画を近影したのが写真2です。このブログを読んでくださった皆様はこの線刻画から何をイメージされますでしょうか? 筆者は、楕円の形のデザインから、雲、しかも流れるような勢いのある暗雲から雨が滝のように降り注いでいる状況(豪雨)を読み取りました。しかし、楕円のデザインの右に描かれたものからは、当時、良いアイデア(いかずち)を読み取ることが叶いませんでした。

その後、数十年の歳月が流れ、この土器はまつやまを代表する絵画土器のひとつに取り上げられるほど、研究者の間では知られるようになりました。

ここであらためて「いかずち」の語源由来を調べてみると…いかずちの「いか」は、「たけだけしい」「荒々しい」「立派」などを意味する形容詞「厳し(いかし)」の語幹で、「ず(づ)」は助詞の「つ」と紹介されています。そして、いかずちの「ち」は、「みずち(水霊)」や「おろち(大蛇)」の「ち」と同じ、霊的な力を持つものを表す言葉で、「厳(いか)つ霊(ち)」が語源と紹介されています。

 

「霹靂一閃」を連想させるこの絵画土器からは、今からおよそ1,800年前の弥生時代終わりから古墳時代初めの頃、まつやまの(わかくさ)ムラの人々は、水田の稲の栽培に大きな支障をきたし、時には人命をも奪いかねない、いかずちを伴う激しい豪雨を鎮めるために、あるいは、厳しい干ばつの年には命の水とも考えられた貴重な雨が早くたくさん降るように雨乞いのために、ムラのリーダー(地域の首長)に頼み込んで、特異な絵画を描いた土器を用いて、土器の口を大きく打ち欠いて(毀損行為)、土坑と呼ばれる大型の穴の底に絵画を下にして横向きに土器を据えて、呪文のような言霊を発して儀式の存在を復元することを可能とします。もしかしたら、絵画の「いかずち」は、竜もイメージして描かれたのかもしれません。

 

もうすぐ完成する書籍『発掘 松山の至宝』で、この絵画土器は、第3章 テーマで見る松山の「古代の記号と絵画」の節に、“謎の絵が描かれた土器”の集合写真に掲載されています。

ふんどう君

 

 

 

ふんどう君

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