埋蔵文化財センターの仕事について[銭貨の保存処理(後編)]

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金属製品を保存処理する工程のなかで、前編でお話しした「クリーニング作業」は、保存処理作業全工程中の7~8割の時間を費やします。
このクリーニング作業が終わると、次は専用の薬品や装置を使って銭貨の「安定化処理」、「樹脂含浸」の処置を行います。

 

銭貨(銅製品)は、錆を安定化させるため「安定化処理」をおこないます。
安定化処理に使う薬品がベンゾトリアゾールアルコール溶液になります(写真の左 ベンゾトリアゾール・写真の右 メチルアルコール)。
※写真は濃度3%の溶液を作っている様子です。

 

 

溶液に銭貨を入れ、減圧装置(デシケーター)を使って減圧下(真空に近い状態)で漬け込みます。

 

漬け込みが終わり自然乾燥します。
順番を間違えないようキチンと並べています。

 

乾燥が終わって樹脂含浸作業に移ります。
樹脂含浸にはアクリル樹脂(写真の左)をアセトン(写真の右)で溶かした溶液を使います。濃度は3%です。
樹脂含浸も安定化処理に使った減圧装置を使います。※減圧することで、錆の進行でできた小さな穴やクラック(ひび割れ)の奥の方まで樹脂を浸透させることができ、銭貨の本体が強化できます。

 

樹脂含浸後は自然乾燥を行い、重量計測を一週間行います。
重量を測ることで、溶剤が抜けて樹脂で硬化されたことがわかります。

 

重量計測は小数点以下3ケタが測れる精密な秤(はかり)を使います。

 

一週間、自然乾燥させた後、乾燥機に入れて強制乾燥させます。また一週間毎日重量計測を行います。※強制乾燥することで、小さな穴、クラックの奥に染み込んだ溶剤を乾燥させます。
樹脂含浸、自然乾燥重量計測、強制乾燥重量計測の3工程を1セットとし、この作業は通常3回行います(錆の進行状況により2回の場合もあります)。

 

樹脂含浸、重量計測作業が終了すると保存処理後の写真撮りの準備(仕上げ作業)をします。この作業も顕微鏡を使って、銭貨の表面の仕上がり具合や綿埃の除去を行います。

 

保存処理後の写真撮りを行います。
最終写真撮りは当センターのスタジオにお願いしました。
写真は銭貨1枚ずつの表裏581枚。カット数では約1170カットになりました。

保存処理後の写真撮りが終了し、保存処理記録(報告書)を仕上げることで保存処理は終了となります。

581枚を並べて撮影してみました。(撮影場所:埋蔵文化財センター内スタジオ 撮影者:大西)

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